スポーツのチカラ Vol.5 一本!

12,000人。これは、日本で視覚障がいがある人の数です(平成28年厚生労働省調査)このうち、柔道をしている人は126人です(日本視覚障害者柔道連盟登録選手)

視覚障害者柔道は、1988年のソウルパラリンピックから正式競技となりました。昨年開催の東京2020パラリンピックまでに、日本は金12個、金銀銅総数では32個のメダルを獲得しています。これは、世界の国々で最も多い獲得数です。視覚障害者柔道は、組み合った状態から試合が始まるのが特徴で、「一本」の大技が出やすく、迫力ある競技です。

瀬戸勇次郎選手。先天性の弱視で色覚に障がいがあり、4歳の時、兄に誘われスポーツ少年団で柔道を始めました。大学4年生で迎えた初めてのパラリンピックとなる東京2020大会66kg級で銅メダリストになりました。3位決定戦では、ジョージアの選手に内股すかしで一本勝ちしました。審判の「一本!」の声で、銅メダル獲得が決まると、喜びの表情は見せず、ゆっくりと開始線に戻り、乱れた道着を整え、すくっと立って、敗れて落胆した相手選手を静かに待っていました。その堂々とした姿にスポーツマンシップを感じました。相手との礼を終え、コーチのもとに戻ると初めて、笑顔を見せました。後日、瀬戸選手から話を聞くと、一本を取った時はとにかく嬉しくて、心の中ではかなり興奮していたそうです。普段から、勝った時こそ、畳を降りるまで感情を表に出さないように心に決めているそうです。

日本では、視覚に障がいのある人を受け入れている道場の数は少なく、全国に数十ほどです。視覚障害者柔道への理解が深まり、視覚障がいのある人を受け入れる道場が広がれば、もっとたくさんの視覚障がい者が柔道を楽しむことができます。

文・撮影:佐山 篤
全国スポーツ推進委員連合機関誌「みんなのスポーツ」2022年10月号